1952年宣教開始 賀茂川教会はプロテスタント・ルター派のキリスト教会です。
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2022年10月礼拝説教
★2022.10.30 「神の真理に結ばれて」ヨハネ8:31－36
★2022.10.23 「許しの恵みのもとで共に生きる」ルカ18:9-14
★2022.10.16 「闇に屈することなく」ルカ18:1-8
★2022.10.9 「人生の再起の力」ルカ17:11-19
★2022.10.1 「ただ主の憐れみにより」ルカ17:1-10
| 「神の真理に結ばれて」ヨハネ8:31－36 2022.10.30 大宮 陸孝 牧師 |
| 「真理はあなたたちを自由にする」（ヨハネによる福音書8:32) |
| 本日は宗教改革を記念する主日として礼拝を守っております。そしてこの日わたしたちに与えられております福音書の日課は、ルターが「聖書のみ、神の恵みのみ、信仰のみ」と主張しましたように、信仰とは何かを記されているところであります。 ヨハネ福音書７章の始めから展開されている主イエスとユダヤ人の論争の継続が描かれ、その論争が更に先鋭化し、５９節で最終局面を迎えています。ユダヤ人たちは主イエスに石を投げつけますが、主イエスは身を隠して神殿の境内から出て行かれます。 ３１節 ヨハネ福音書８章３０節を読みますと、エルサレム神殿で主イエスは多数のユダヤ人に囲まれています。このユダヤ人たちは一応主イエスを「信じた」とされています。裏を返せばこの表現には主イエスを信じないユダヤ人が想定されていて、その背景には、会堂に残るユダヤ人とイエスを主と告白するユダヤ人の分裂状況があるということがあります。またイエスを信じるふりをした偽りの弟子がいたことをも主イエスは予測していたと思われます。主イエスとユダヤ人との間に横たわっている深い溝は言葉による説明だけで克服できるような生易しいものではないということがこれまでの長い論述の中心的な内容であったのに、多くの人がイエスの言葉を聞いて信じたというのです。これは意外な結果でもありました。しかしそれに続く本日の日課の所を読みますと、どうやらその信仰は深いものではなかったようであります。盲信、軽信の類ではなかったかと怪しまれます。何故かと言いますと、７章１２節以下のイエスの厳しい言葉、特にユダヤ人に対する厳しい言葉を聞いたにも拘わらずそれでも信じたのに、ここでの論争の後、やがて彼らは主イエスに躓き、彼らはイエスを「あなたはサマリア人で、悪霊にとりつかれている」（４８節）とののしり、石を投げて殺そうとしたと記されているからです。（５９節）。 このことはヨハネ福音書が書かれた時代の問題がここに反映されていると見ることができます。この物語を通してヨハネは一世紀の終わりか二世紀の初めの特にユダヤ人のキリスト教徒のことを念頭におき、彼らに語りかけていると思われます。おそらく一時信仰していた多くのユダヤ人キリスト教徒は、当時のユダヤ教からのキリスト教への激しい迫害、イエスのメシアであることの否定などによって動揺し、信仰を捨てる者が多く出たと思われます。それに対しヨハネは、信仰の真の問題点は遙かに深い所に潜んでおり、外面的な納得や承服くらいのことでは、本当の解決にはならない。信じるということは、ただ頭の中で理解し同意するというだけのことではなくて、「わたしの言葉にとどまるならば、あなたたちは本当にわたしの弟子である」という主イエスの言葉を彼らに投げかけて、「主イエスの言葉に留まる」こと、つまり全生活を挙げて持続的に、主イエスの御言葉に依り頼み、従って生きるという内容が伴わなければならない。そうなってこそ初めて、本当に主イエスの弟子となることができる。そして『弟子』とは、一生涯変わることなくイエスの御後に従う者、という内容を持つ。つまり、全存在を挙げてイエスとの人格的交わりの中に留まる者、という意味であります。そして、この信仰生活を通して初めて、人は、神とは如何なる方であるかと言う「真理」に触れることになると主張しているのです。 ３２節 「わたしのことば」「真理」とは何でしょうか。それはヨハネにとってはイエス・キリストの姿、存在、その十字架と復活の出来事にほかなりません。わたし、すなわち主イエスの言葉は言いかえるならば父なる神の言葉です。主イエスの心と思いは父なる神の心と思いと一つだからです。そして父なる神の心と思いはどこにあらわれているでしょうか。父なる神がわたしたちに語りかけられる御言葉とは何でしょうか。それはヨハネ福音書が繰り返し言い表していますように、「言葉の内に命があった。命は人間を照らす光であった」（１：４）、「言葉は肉となって、わたしたちの間に宿られた。わたしたちはその栄光を見た。それは父の独り子としての栄光であって、恵みと真理に満ちていた」（１：１４）。「律法はモーセを通して与えられたが、恵みと真理はイエス・キリストを通して現れたからである。いまだかって、神を見た者はいない。父のふところにいる一人子である神、この方が神を示されたのである」（１：１７、１８）と書かれていることなのです。このイエス・キリストの十字架と復活の出来事、そこにあらわされている、父なる神と子なるイエス・キリストの赦しの愛と復活の命、この「わたしの言葉」にとどまり、これをしっかりと握って離さないときに、神との関係が修復され、神との人格的な関係がもう一度結ばれ、わたしたち一人一人は本当に主イエスの弟子となるというのです。この弟子という言葉はここでは単に主イエスの在世中にイエスに従った人を指すだけではなくすべての信仰者を指しています。 そして、わたしたちが神との交わり、正しい関係を回復したとき、わたしたちの自己中心性、自己正当化、責任転嫁というわたしたちを縛っている罪から根源的に自由にされるのです。その時わたしたちは真理を知ることになるのです。ヨハネ福音書はもちろんギリシャ語で書かれています。「真理」はギリシャ語でアレーティアといいます。それは覆いを取り除くと言う意味です。ギリシャの哲学者たちは、人間の感覚という覆い（ベール）を取り除いて理性の目を持って見るとき本当にものが見えて来ると考えました。しかし、ヘブライ人にとって、このギリシャ人のアレーティアに当たることばはエメスといい、むしろ真実と訳すべき言葉でした。神の真実を指す言葉です。この神の真実を、神の言葉を、旧約の時代には、人は預言者の言葉を通して聞くことができたのでした。ヘブライ人にとっては神の言葉を聞くことが根本的に大切なことであり、ギリシャ人にはベールをはがして本当のものを見ることが根本的に大切なことでした。ヨハネはヘブライの伝統に立ちながら、しかもギリシャ的なものをも取り入れています。なぜならヨハネは神の言葉を聞くだけではなく、神の言葉が肉となった姿を、あの実在したイエス・キリストの十字架と復活の姿に見たといっているのですから。これを見た人、イエス・キリストの十字架と復活の愛と命に捕らえられた人は本当の自由を得ると主張しているのです。 そして、この「真理はあなたたちを自由にする」という主イエスの言葉に対し、いったん主イエスを信じたユダヤ人たちがつまづくのです。自分たちはアブラハムの子孫であって、誰の奴隷にもなったことはないと。（３３節）この主張は政治的・外的な意味で言っているのではありません。それといいますのは、ユダヤ人たちはバビロン捕囚以来、国を失い外国の支配下にあったからです。しかし、たとえ外面的にはそうであっても、彼らは宗教的に神の選民であり、天地を創り、すべての人と歴史を支配する唯一の神を知り、その御心である律法を与えられているという自負を持っておりました。この律法を守ることによって自分たちは自由である、誰からも指を指されることはないと考えていたのです。 しかし主イエスは罪を犯すものは罪の奴隷であると言われます。この罪という言葉がたんに道徳的な罪をさしているのではないことをすでに８：１２節において語っておられます。律法を守っているから自由だ。潔白だと主張するユダヤ人に対して主イエスは、すべての人は罪と死の支配から逃れることはできない、罪と死とは神さまからの離脱・離反と、その関係に死んでいる状態を言います。すべての人はこの意味で罪の奴隷である、この罪の支配から解放する力は、そして死より解放する命は、ただただイエス・キリストの十字架と復活の真理にのみある、と主張しているのです。 自由！昔の奴隷たちはどのように自由を求めたことでしょうか。そのように現代に生きるわたしたちは自分の内面の束縛、罪からの自由を求めているのでしょうか。しかし人間は多くの場合、何か困ったことにぶつかった場合、何か困難な苦しいことにぶつかった場合、特に死に直面したとき、自分が今まで気づかなかった「自由」への乾きを知るのではないでしょうか。イエスさまは、ユダヤ人たちに対して、自分の真の姿を知ること、そしてそこから本当の自由を求めることを彼らに勧めているのです。 先程真理という言葉はギリシャ語ではアレーティアであるけれども、これは旧約聖書のヘブル語の「エメス」にルーツを持つことばであることを申しました。いま、わたしたちが「アーメン」というあの「アーメン」と同系の「エメス」です。確固としているもの、揺るがぬもの、岩のようにどっしりと動かず、ぐらぐら揺れ動くことなく、びくともしないもの。それは真実であり、偽りの反対です。キリストご自身がアーメンである方です。真理とはイエス御自身の人格に他なりません。この主イエスの人格にわたしたち一人一人がしっかりと結びつくとき、わたしたちは罪から解放され、神の愛と恵みの自由に生きる者とされるのです。ルターが言いましたように、「罪と死、悪魔と一切の災いからの解放」なのです。 お祈りします。 神さま今日は、あなたの御子主イエスこそ、その全存在を通して神さまの御心が現され、御旨が行われたこと、そしてわたしたちの全生涯をその主イエスに繋がり続けて生きることが信仰であることを学びました。主イエスの弟子とされたすべての者が主イエスの弟子であり続けるために何が求められ、何が戒められているかをいつもわきまえて、試練や迫害や困難の中にあってもわたしたちの道を見誤ることがありませんように、わたしたちの信仰の歩みを終わりまで導き、全うさせてください。 主イエス・キリストの御名を通してお祈りいたします。 アーメン ◆ページの先頭へ |
| 「許しの恵みのもとで共に生きる」ルカ18:9-14 2022.10.23 大宮 陸孝 牧師 |
| 「ところが、徴税人は遠くに立って、芽を目を天に上げようともせず、胸を打ちながら言った。『神様、罪人のわたしを憐れんでください。』（ルカによる福音書18:13)
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| このたとえ話は、ルカ福音書に１３を数えるルカ特有のたとえ話のひとつでありますが、１８章１節から８節とともに、正しい祈りの態度を教えたものとして、まとめてあつかっていると思われます。絶望的な状況の中で失望しないで祈り続けるやもめの熱心さと、この取税人のような謙虚さとは、たしかに正しい祈りに欠かすことのできないものです。 ８節までが特定の人に向けられたものではないのに対して、９節以下は内容も祈りについてのたとえというよりも、むしろ、１５章にありますような「失われた息子」のたとえ話と同様に、悔い改める罪人を受け入れたもう神の憐れみを教えようとしたものであると見ることができます。 このたとえの導入部には「自分を義人だと自認して他人を見下げている人たちに対して」主イエスがお語りになったと記されております。特に名指してはいませんけれども、それは明らかにファリサイ人に向けて語られた論争的な調子を帯びています。「自分を義人だと自認している」。自認しているという語は、自分自身を信じている、自惚れているという意味で、自分で自分が正しいと確信をもっているから、神に頼る必要はなく、神を信じ、神の律法を守ることに専念していると言いながら、実は神ではなく自分自身の自意識を拠り所にして生きているということであります。そして、「他人を見下げている」とあります。自分以外のすべての人を、自分よりも劣っているものとして蔑（さげす）み、くだらぬ人間と思っている。いつも自分を他人と比較して、相対的に評価し根拠のない優越感を支えにして生きている。自分を誇り、他人を見下す。律法を落ち度なく守ることに専念してきたファリサイ人は、まさにそのことの故に不信仰と高慢の罪を主イエスによって指摘されたのです。 そしてこのように自分自身の正しさにたよるファリサイ人にとって、主イエスの罪の贖いの恵みは不必要であり、救いの福音は躓き以外の何ものでもなかったのです。どのような点においても自らの行為によって自分を正しいとする立場は聖書に示されております福音信仰とは相容れないものです。主イエスは、自分の正しさを誇るこれらの敵対者に対して、立つべきは神の無条件の贖いの赦しなのだと言おうとしてこの譬えを語っておられるのです。ですから、この譬えは悔い改める罪人に対する神の憐れみをその内容としているとは言っても、誰に向かって語られているのかといえば、あくまでも自分を正しい人間だと自認しているために神さまの救いの恵みを受け入れないでいる人々であるということになります。 「ファリサイ人は立って一人でこう祈った」 立って祈るのはユダヤ人一般の習わしでありましたが、ルカは何か重要な言葉が語られる時には、「立って」という語を慣用的に記すのです。ファリサイ人は人々の注目を集めるために、なるべく目立つところに立って、敬虔な態度で祈ります。ひとりで祈ったのは、だれも見ていないところで祈ったということではなく、黙って心の中で祈ったという意味です。ファリサイ人は、決して人に聞かせるためではなく、心の中でこのような思い上がった祈りを捧げたのです。祈りは神との交流ですから祈りにおいてわたしたちは本心をごまかすことはできません。たとえ表面はどんなに謙虚な態度を装っても、心の中で献げる祈りに、その本心はあますところなくあらわれるのです。わたしたちは誰も公然とこのような高慢な祈りを口に出して祈る者はいないかもしれないですけれども、しかし本心ではこのような人には聞かせられないような祈りを、わたしたちもまた心の中で捧げているということがあるのではないでしょうか。 「他の人たちのような者ではないことを感謝します」パリサイ人は自分の功績を列挙するに先立って、それを引き立たせるために、まず、自分以外の人間がいかに多くの罪を犯しているかを数え上げます。わたしたちはいつも他人との比較で自分を評価しようとします。他を非難し裁くことによって、自分を正当化し、自己満足にひたろうとします。しかしこのように、他の人との比較によって自分を評価している限り、本当の自分の姿は見えていないという皮肉な実態が明らかとなっています。 正義をふりかざし、他人や社会のことにのみ目を向けて、これを批判攻撃することはたやすいことであります。しかし自分を局外者の立場においているかぎり、自分自身が見えなくなり独善と高慢と偏見に陥るほかはありません。ファリサイ人は他人の罪を並べ立てて裁いているだけではなく、自分がそのような人間ではないことを神に感謝しています。彼の決定的な誤りはここにあります。人間が神の前に感謝できることがあるとすれば、自分の罪を神が恵みによって赦して戴いたということです。その感謝がほんものであれば、他者もまた同じ恵みに与ることを願い求めて祈るという展開になるはずです。罪に於いては人間は連帯責任を負う存在です。自分が人間の罪の現実の中で苦悩するような目に合わなかったことを感謝する、そのような自己本位の感謝は許されない、それが人間の厳粛な事実です。そうであるのに、ファリサイ人は他人に対して独善的な感謝の祈りをしているのです。 要するにこのような祈りによって、ファリサイ人は神に感謝の祈りを捧げているのではなく、神と人との前に自分自身を誇っているのです。神の人間に対する恵みを讃えているのではなく、自分自身をたたえることによって、かえって神の恵みをないがしろにし、他者を見下げているのです。彼は神に対して何も祈り求めてはいません。神なしにでも自分の力でやっていけると自負している、それが次の律法に定められている以上のことを実行して宗教的に熱心であると主張していることです。しかし、たとい他のすべての人にまさって律法に忠実であったにしても、それも神の恵みによることであり、彼の身のうちには、神と人々の前に誇るべきものはまったくなにもないと言うのが実相です。 １３節 「取税人は遠く離れて立ち、目を天に上げようともせず、胸を打ちながら言った。『神さま、罪人のわたしを憐れんでください』」目を天に向けて祈るのが一般的な姿勢であったにもかかわらず、彼は自分の罪に打ちひしがれて目を伏せ、激しく胸を打ちながら祈ります。「胸を打つ」ということは、罪に対する深い後悔と悲しみの思いを現す所作です。彼は神の前に誇るべきものを全く見出すことができません。自分に対する徹底的な絶望の中から、ただ神の憐れみを乞い求めるだけでした。 「神さま、罪人のわたしをおゆるしください」徴税人は自分のことをただ罪人のわたしと言いあらわしています。「他ならぬこの罪人なるわたし」彼は、今までに犯してきた、数々の罪に対する赦しを求めているのではありません。神様から離れ、的外れな罪そのものであるみじめな、絶望的な自分の存在に対する神の憐れみを乞うているのです。どこから見ても、もはや神の憐れみを受ける資格などあるはずのない、救われる望みを全く失った絶望的な自己を神の前に投げ出しているのです。もはや彼には神の無条件の赦しがなければ生きることも死ぬこともできない罪人として、ただただ神の憐れみを乞い求めているのです。それがこの取税人の自己理解でした。 その取税人に対して主イエスは、「神に義とされて家に帰ったのはこの人である」と言われました。この世の価値観を逆転されて、救いが完成される終末の日に神の国に受け入れられるのは誰かということが、ここで明らかとなります。自分の家に帰って行ったとは、ただ単に元の生活に逆戻りしたというのではなく、全く新しくされた生活に踏み出すことであります。神はご自身の前において、徹底的に自分に絶望している人間をご覧になって、絶望に終わらせることはありません。神の恵みのもとでの新しい生活を始める機会を与えてくださるのです。その意味では信仰の歩みとはいつも「絶望からの出発」なのです。これに対して自分で自分を正しいとする自己義人にひたって宮を出たファリサイ人の生活には何も新しいことは始まらないでしょう。彼は元の生活に逆戻りしただけのことであります。 このたとえはただ単にファリサイ人はその高慢さのためにしりぞけられ、取税人はその謙虚さのために神に受け入れられたというような教訓ではありません。そうではなくてこの取税人が正しいとされたのは、ただ悔い改めた罪人をゆるし受け入れるために、十字架に御自身の生命を献げられたイエス・キリストの恵みによることなのです。律法に対するファリサイ人の熱心さも、取税人の徹底した謙虚さも、全く救いの条件にはならないのです。ですから自分の正しさに満足して、神の憐れみを求めることを必要としなかったファリサイ人ではなく、自分自身に全く絶望して、ただ神の憐れみだけを拠り所とし、乞い求めた取税人が、神さまの一方的な憐れみと罪の赦しの中で生かされる者となったのです。 「神の受け入れられるいけにえは悔い砕けた魂です」（詩篇５１：１７）わたしたちもまた礼拝に集うごとに、取税人のような砕かれた魂をもって御前にぬかずき、神の憐れみによって、その恵みのうちに新しく生かされて、日常生活のなかに帰って行く、自分に絶望することから、新しい生活へと出発していく者となって行きたいと思います。 お祈りします。 神さま。あなたの御前にわたしたちはすべて罪人です。神さまの怒りと裁きによってただ滅びるだけの望みのない中にあるものです。どうぞ、悔い砕けた心をもってあなたの前にぬかずき、しかし、キリストを通して注がれておりますあなたの慈しみと憐れみに依りすがって新しく人生を生きることができますように、信仰に基づく望みと喜びと生きる力とを与えてください。 イエス・キリストの御名を通してお祈りいたします。 アーメン。 ◆ページの先頭へ |
| 「闇に屈することなく」ルカ18:1-8 2022.10.16 大宮 陸孝 牧師 |
| 「まして神は、昼も夜も叫び求めている選ばれた人たちのために裁きを行わずに、彼らをいつまでもほうっておかれることがあろうか。」（ルカによる福音書18:7)
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| 本日の福音書の日課はルカ福音書に独特なたとえ話です。１７章からずっと続いて来ました、「人の子の日」「人の子の顕れる時」に備える心構えを教えて来られた最後のくだりです。日本語訳では一八章一節に、「弟子たちにたとえを話された」と書かれています。原文ではただ「彼らに」となっているのですけれども、この「彼らに」は、明らかに１７章２２節の「弟子たちに言われた」言葉、これを受けて続いている主イエスの話ということになります。 ２節から５節にその「たとえ」が語られます。「ある町に、神を畏れず人を人とも思わない裁判官がいた。ところが、その町に一人のやもめがいて、裁判官のところに来ては、『相手を裁いて、わたしを守ってください』と言っていた。裁判官は、しばらくの間は取り合おうとしなかった」とありますこれは原文では「しかし彼は意思しなかった、願わなかった」という表現です。ただスローモーでやるこことが遅いとか、あるいは怠慢のために日がどんどん経っていったというのではなく、はっきりと「彼はそれを行う意思がなかった」。こんなうるさい面倒な事件に巻き込まれて、やもめの相手方と渡り合ってでもやもめの正義を守るという、そういう面倒なことを嫌がるという感じです。 しかし、その後に考えを変えて『自分は神など畏れないし、人を人とも思わない。しかし、あのやもめは、うるさくてかなわないから、彼女のために裁判をしてやろう。さもないと、ひっきりなしにやって来て、わたしをさんざんな目に遭わすにちがいない』」。と態度を変えるのです。「さんざんな目に遭わせる」というのはボクシングなどで相手の顔を殴って"目の下に隈が出来てしまう"という表現です。つまりメンツを潰されてしまうかも知れないと言う意味で使われている表現と解釈されます。 ここに登場します人物は、「神を畏れず人を人とも思わない裁判官」です。ここでの表現、「神を畏れず人を人とも思わない」というのは、ユダヤだけでなくローマでも語られていた"傍若無人で尊大な"人柄を形容することわざのような言い回しですが、これを裁判官に適用しているということは、「全く不適格な裁判官」ということになります。旧約聖書の歴代誌下１９章６節以下に、ユダの王ヨシャファトが裁判官たちを戒める言葉が書かれています。「彼は裁判官に言った。『人のためではなく、主のために裁くのだから、自分が何をすべきか、よく考えなさい。裁きを下すとき、主があなたたちとともにいてくださるように。今主への恐れがあなたたちにあるように。注意深く裁きなさい。わたしの神、主のもとに不正も偏見も収賄もない』」このように戒めています。 イザヤ書１章で、当時の不正な社会を預言者イザヤは弾劾しているのですが、１５節以下「お前の血にまみれた手を、洗って、清くせよ。悪い行いをわたしの目の前から取り除け。悪を行うことをやめ、善を行うことを学び、裁きをどこまでも実行して、搾取する者を懲らし、孤児の権利を守り、やもめの訴えを弁護せよ」と訴え、続いて２３節「支配者らは無慈悲で、盗人の仲間となり、皆賄賂を喜び、贈り物を強要する。孤児の権利は守られず、やもめの訴えは取り上げられない」となっていますから、主イエスが語っておられるたとえ話の裁判官は実際に本当の失格者であるということになります。 ここで重要なことは「神を畏れる」ということと、「人を人とも思わない」と言うことが切り離されることなく、結びつけられているということです。信仰とは、神を畏れることに始まります。神を畏れるとは、神の裁きを恐れることです。全く神を畏れることのないところに、人間の悲惨がある。そして、神を畏れることがないがために、そこに起こってくることがある。それが「人を人とも思わない」ということです。神との関係を正しく生きることと人と人との関係を正しく生きることとは、聖書においては切り離すことができないのです。神を神としないために、人を人としても重んじることができなくなるということが起こるです。逆に言いますと神を神として畏れるときに、人を人として重んじることも生まれてくるということです。 たとえに登場している裁判官は主イエスによって「不正な裁判官」と呼ばれていますが、この「不正」とは「神を畏れず人を人とも思わない」ということです。このような裁判官がいた町に、一人のやもめが登場します。そして、彼女は、このひどい裁判官のもとにやってきては「相手を裁いて、わたしを守ってください」と、しきりに懇願します。このやもめの困窮が具体的にどのようなものであったのかはここには何も記されてはいませんが、彼女は「相手」と呼ばれている他者から何か酷い目に遭わされていたということでしょう。聖書においては前掲のイザヤ書にもありますように「やもめ」はいつも守られ、配慮されることを必要としている存在であり、弱き者の代表的な存在でありました。そして、このやもめの存在が、どのような扱いを受けているかが、その国家、社会、また共同体の指標となるということでもあったのです。 そのようなやもめが、困窮の中に置かれたままになっていた。このように見て来ますと、「神を畏れず人を人とも思わない」ということは、この裁判官だけのことではないと気付かされます。やもめを苦しめていた「相手」もそうであったし、さらにまた、このやもめを取り囲んでいる世界そのものもまた同じであるということです。やもめはそのような世界の中に放置されて生きていたのです。そこで６節で「それから、主は言われた。『この不正な裁判官の言いぐさを聞きなさい。』」といわれます。「言いぐさを聞け」と言いますと、何か軽蔑の意味をこめた悪い意味の台詞のようですが、これは、「何と言っているかを聞きなさい」と言う言い回しで、それはどのことを指しているかと言いますと、５節の真ん中にあります「彼女のために裁判をしてやろう」と決断したことを受けている言葉と見ることが出来ます。 ここでわたしたちが問わずにおれないのは、このやもめとは誰のことであるのかであります。主イエスご自身が、「神は、昼も夜も叫び求めている選ばれた人たち」（７節）についてここで語られていますことから、このやもめとは、神の民、教会のことであることが明らかとなります。 やもめとは教会のことです。この教会こそ「選ばれた人たち」の群れ、共同体であります。「選ばれた人たち」とは優秀な人たち、エリート、強者のことではありません。このやもめに代表される弱者であります。選びの信仰とは何かを本日の日課は明らかにしています。選びとは、神の恵みを明らかにするものです。 このやもめを取り囲む現実、「神を畏れず人を人とも思わない」この現実は、わたしたちの世界の現実でもあります。問題はそこでわたしたちがどう生きるのかです。やもめはただ涙を流しているだけではありません。また、独り言をつぶやき、悲しみを引きずって自分の周りをぐるぐる堂々巡りしているのでもありません。このやもめの特質は、このような現実の中で、決してあきらめないことです。あきらめないで何度も裁判官に訴えます。もう一方で、裁判官はやもめの訴えに根負けしてついに聞き届けてくれるのですが、神はこのような裁判官のような方だと言いたいのではありません。そうではなく全く反対に、不正な裁判官でさえそうであるのならば、とこういう不正で悪い人間の姿をたとえに取りまして、方や不正な裁判官、失格の裁判官に対する見ず知らずのやもめであるのに対して、こちらは神自らお選びになった"選びの民"たちのために「ましてや義なる真実な方である神は自らお選びになった信仰者の群れのため」に速やかに裁いてくださる。教会がその恵み深い、憐れみ深い神の速やかな裁きに信頼し、自らを委ねて行く信仰の道を開いてくださっているということを主張しているのです。 教会のなげきは神に向かっているのです。自分の困窮に向かい合ってくれている相手が存在する。その相手に信頼を置いて、自分の訴えを聞き届けてくれるその信頼がいささかも揺らぐことなく、訴え続けているのです。やもめは自ら弱くて、無力であることを知っています。だからこそ裁判官のところに行き、しかも、一度だけではなく何度も繰り返して、足を向けたのです。そのようにして、彼女がひたすら求めたのは「相手を裁いて、わたしを守ってください」ということでありました。正当な裁き、正義が行われることであってそれ以外のことではありませんでした。ここに再臨を待ち望む教会のあるべき姿が示されているのです。この日にいたるまで、教会は祈り続けて来ました。今ここに至るまでの教会の全歴史がここに、このやもめの姿に映し出され、そして、その教会の救いの歴史の先端にいるのがわたしたちの今日の教会であるということです。「気を落とさずに」、試練や迫害や困難があっても「落胆しないで」祈り続けなさい、神は必ず訴えを取り上げて裁いてくださる 不義不正はいつまでも続くことは決してない、やがて世の終わり、再臨の日にはそれらは終結するのだからと主イエスは教会を励ましておられるのです。 聖霊降臨によって誕生した教会は、主イエスが再び来てくださるその時まで、この一人のやもめのように、主に向かって叫び続け、願い求め続ける群れであります。一人のやもめとして、この世にあって不正が行われ、罪と悪の力が思うがままに力を奮い、「神を畏れず人を人とも思わない」世の荒波の中にあっても、教会は神がいますこと、そして神の義の支配を信じ続け、気落ちしないで絶えず祈り続けます。そして、主イエスはそこに既に神の国は到来していると告げられます。つまり、教会の群れは神の国のしるしなのです。神の国のしるしは、このやもめのような見捨てられたかのような弱さ、小ささの中にあって、失望せずに祈り続ける主の群れの中に既に来ていると約束されているのです。 お祈りいたします。 神様。あなたは、日夜祈り続ける者の祈りを聞き届けてくださいます。わたしたちが悩まされ、心痛めているこの世の様々な問題を必ず解決してくださいます。主イエスはそのことよりもむしろ、わたしたちがこの世の思い患いの中で、あきらめ、疑い、祈る事を止める不信仰の方を心配してくださっています。 神様。わたしたちを憐れんでくださり、聖霊の助けによって、わたしたちがいつまでも気落ちすることなく祈り続けるあなたの選びの民となることができますように導いてください。 主イエス・キリストの御名を通してお祈り致します。 アーメン ◆ページの先頭へ |
| 「人生の再起の力」ルカ17:11-19 2022.10.9 大宮 陸孝 牧師 |
| その中の一人は、自分がいやされたのを知って、大声で神を賛美しながら戻ってきた。（ルカによる福音書17:15) |
| 本日学びますルカ福音書の日課は、ルカ福音書だけが伝える独自のかなり有名なおはなしであります。一一節「イエスはエルサレムへ上る途中、サマリアとガリラヤの間を通られた」とありますように、エルサレムへの旅の途上のできごととして記しております。これは、９章５１、５２節「イエスは、天に上げられる時期が近づくと、エルサレムに向かう決意を固められた。そして、先に使いの者を出された。彼らは行って、イエスのために準備をしようと、サマリア人の村へ入った」、このように始まりましたエルサレム上りの旅であります。１３章２２節にも、「イエスは町や村を巡って教えながら、エルサレムへ向かって進んでおられた」といわれているその旅の続きであります。その旅の途上で十人の病人に会われてお癒しになったという出来事が起こります。それが１２節から１４節までに記されております。 ルカ福音書ではすでに５章１２節～１６節にも、ハンセン病人の癒しの物語が記されておりますが、本日の１７章の場合には何と言っても十人の者たちが群れをなしている点に大きな特徴があります。しかも１６節によりますと、この群れはユダヤ人とサマリヤ人が混在する集団であります。当時のユダヤ教社会では、このようなことは一般的にはあり得ないことであります。ただ、ハンセン病という困難を抱えた闘いの共有ということが、当時の絶対的とも言える分裂の壁をつき破り、超越させていたということです。十人の者は、その人生の未曾有の戦いの共有者として、一般社会から排除されることで、一つの群れを形成していたのであります。しかし、それは彼らが好んで自分たちの群れを形成したのではありませんでした。彼らを囲む社会が彼らをそこに追いやり、一つの群れを形成させたと言うことでありました。自らは健康で正常と自負する社会が、その自負によって弱者を切り捨て、排除し、そうすることで自らを守ろうとする社会の姿が背後に見えて来ます。ハンセン病を医学的に克服する術を持たない当時の社会の状況を考えれば、それはやむを得ないことであったのかも知れません。しかし現代ではこの問題は医学的には既に克服されているにもかかわらず、かつてハンセン病だった方々がなお根強く残るわたしたちの社会の偏見と医学的無知のために、社会復帰できないでおられる現実をも見据えながら本日のこの箇所を読んで行かなければならないと思います。 それで、このように十人の者たちが、その病のゆえにその人間性も否定され、神に呪われた者として社会から排除されていましたが、そのような状況の中でいわゆる通常の社会が生み出し得ないでいるユダヤ人とサマリヤ人との共生が、このような被差別に生きる人々において起こっているという事実に注目させられるのです。主イエスはまさにそのようにして生きている病める十人の者たちと出会われたのです。十人は律法の定めに従って、遠方から大声で主イエスに向って叫びます。（レビ記１３：４５～４６）「イエスさま、わたしたちを憐れんでください」。彼らの叫びを思い浮かべて見ると。それは切羽詰まった人間のぎりぎりの戦いを感じさせる叫びです。 １４節 主イエスはこの十人の者たちの叫びを決して見逃しません。他のすべての者が彼らの大声を無視し続けようとも、キリストはその叫びを深く聞き届けておられる。しかし、ここでは何故か５章の場合と違って彼らに触れられないで、直ちに祭司の所へ行って体を見せるように命じられるだけでした。その場で癒しの業をなされず、祭司の所へ向かう途中で癒されたと語るこのできごとにも深い味わいがあるように思われます。ここのところでの癒しの出来事の場合には、十人の者はイエスの命令に信頼して、まだ実現していない癒しを、しかし必ず癒されると信じて祭司の所に向かう信仰が求められているのです。そしてイエスの命令に、信じて従う行動の中で彼らは癒されていったのです。信仰には、このようにまだ見ていない将来を、しかしイエス・キリストへの信頼のゆえに既に見ているかのように希望と確信を持って生きて行く、そういう側面があることを描き出しているのです。（ヨハネ２０：１９） １５節～１８節 癒された十人の中の一人が、きびす踵を返してイエスのもとに戻り、心からの感謝を表しています。「大声で神をほめたたえながら帰って来て、イエスの足もとにひれ伏して感謝した」と描き出されている彼のこの様子は、神の救いにあずかった者があらわす歓喜の姿であり、彼がまさしく礼拝者としてキリストの前に跪いていることを物語っています。（イザヤ３５：１０） 彼のこの歓喜は、彼がキリストの癒しの中に神の深い恵みと憐れみを実感していること、彼が決して神の呪われた存在ではなく、計り知れない神の祝福の中にあることを、ハンセン病の癒しのできごとを通してその身いっぱいに感じ取っている姿であるということができるのです。しかし、どうして彼だけがキリストのもとに戻ってきたのでしょうか。残りの九人はどうしてキリストの元に戻らなかったのでしょうか。この謎を解く手掛かりは、「これはサマリヤ人であった」（１６節）という短い言葉にあるように思います。 考えて見ますれば、ユダヤ教の祭司のもとへサマリヤ人の彼が素直に行くことがどうしてできるはずがありましょう。彼は異邦人であり、ユダヤ人からは排除されていました。一方ユダヤ人であった九人の者たちは途中で癒されたと分かったとき、それこそ胸を張って祭司のもとにはせ参じることができたことでしょう。そして祭司から掟にしたがってハンセン病が癒されたことを証明してもらえれば、直ちに彼らは神の民イスラエルの共同体に復帰することができます。しかし、このサマリヤ人の場合には事情が違っています。彼も道の途中で他の九人と同じようにその身の癒されたことを知りました。しかし他の九人と違って、彼には祭司に証明してもらう道は閉ざされていたのです。ここにあの九人の者たちとこのサマリヤ人との間の決定的な違いがありました。このようにして九人の者は去り、サマリヤ人はキリストのもとに戻って来たのです。いや、キリストの元に戻って来る以外に道はなかったのです。ですから、キリストのもとに戻った一人がたまたまサマリヤ人であったと言うことではないということを、わたしたちははっきりと認識しなければならないのです。十人のうち帰って来る者があるとすれば、それは必ずサマリヤ人に違いなかったはずなのです。 ところで、彼ら十人の群れはハンセン病であった時にはその生活の絆が固く結ばれていたのに、ひと度その病が癒されると、その結びつきも壊れていく。そして両者の間にユダヤ人とサマリヤ人の障壁が再び表れていることを見逃すことはできません。彼らの苦しみの根源が取り除かれた時に、かえってあの苦しみの中での絆の内実が問われる結果となっている点に問題の深みがあるように思います。 サマリヤ人はこのようにして、一人取り残されて、キリストのもとに帰って来ました。しかし、彼は明るく輝いている。彼の様子は決して孤独ではありません。かつての友だちに取り残された孤独をはるかに超越した深い喜びを、キリストによって彼は得ているのです。そこにはむしろキリストと真に出会うために、その友だちと主体的に訣別してきたような強さと確信が漲っているのです。しかも彼の態度は、単に肉体の癒しに喜び踊る様子をはるかに超えて、こころから神を仰ぐ礼拝者の姿そのものをあらわしているのです。 さて、その彼に対しての主イエスのお言葉ですが、１７節～１８節 そこには戻ってこなかった九人の者に対する深い嘆息と悲しみが込められているようです。さらにかつての十人の絆が、癒しと共にかえって崩壊していることへの嘆きをも含んでいるようです。 しかし、このサマリヤ人が戻って来て神を賛美している事実の意味は、測り知ることができないほど大きいものがあるように思います。ユダヤ教から疎外されていた異邦人の彼が、主イエスを真の祭司として受け入れ、この主イエスから病の癒しの証明を得て充足しているのです。ユダヤ教の枠組みの中に縛られていた九人の者にはそれができなかった。ですから彼らは、ユダヤ教の祭司のもとへと伺い、キリストとの絆は途絶えてしまっている。ここにユダヤ教が持っている限界が示されているのです。それと共にキリストの福音が、民族や文化の壁をつき破って、世界へと拡がって行く救いの御業、神の救いの働きが力強く世界に拡がって行くものであることを高らかに宣言されていると受け留めなければならないと思います。 わたしたちは自分を中心にして絶えず囲いを設け障壁を築いて、他者をふるい分け区別し、排除し、自らの安全を守ろうとします。これがわたしたちの罪の本質なのです。主イエスは、この罪の本質である障壁を打ち破られ、乗り越えて、真に神の恵みによる人間の平等と、共に生きる道を探り求めて行く勇気と力とを与えてくださるように祈りつつ歩む信仰の道へとわたしたちを導いてくださろうとしているのです。そのことを、今の現代のこの混沌とした国際社会の深刻な分断の中で今一度しっかりと受け止めていかなければならないと思います。 １９節「立って行きなさい」。主イエスは、この癒されたサマリヤ人をご自分のもとに引き止めるのではなく、この人自身の生きている生の現場へと再び送り出されます。そこでは必ずまた厳しい信仰の戦いがあるであろうことが予想されます。かつてハンセン病であったことに対する偏見や差別は相変わらず彼に向けられるでしょうし、加えて彼の身に幾分かの後遺症が残っている場合には一層の拒絶が彼を待ち受けているでありましょう。ここでの病の癒しだけで万事めでたしめでたしと言うわけには決して行かないことも主イエスはご承知の上で、敢えて彼をその信仰の戦いの中へ送り出すのです。 それにもかかわらず、彼は決して孤独ではありません。彼の叫びを聞き届け、彼を癒されたキリストが彼の隣にいつも立ち、共に信仰の戦いを戦っていてくださることを彼は信じたからです。このサマリヤ人は、彼と共にいてくださるキリストを自分の人生の真の支えとして、必ず生き抜いて行くことでありましょう。人間の罪の現実が必ずあるにもかかわらず、そこで、彼がかつては持っていたはずのユダヤ人への憎しみの思いから根源的な所で解放されて、彼もまた他者を赦し愛する歩みへと絶えず向かっていくはずであります。ここにキリストに出会った者の新しい生き方があるのです。 お祈りいたします。 あなたの前に出るにふさわしくない、深い罪の淵の中に埋もれるようにあえいでおりましたわたしたちが、主イエス・キリストを通して神さまの憐れみに触れ、清められ、赦され、癒やされて僕とされましたことを心から感謝いたします。このあなたのこの上ない恵みの賜物を心から喜び感謝し、その故にあなたを賛美しながらこれからの人生を歩んで行くことができますように、わたしたちがあなたの救いの働きをより一層深く信頼して歩む信仰の道へとわたしたちを導いてください。そしてあなたの栄光を表していくことができますように。 イエス・キリストの御名を通してお祈りいたします。 アーメン。 ◆ページの先頭へ |
| 「ただ主の憐れみにより」ルカ17:1-10 2022.10.1 大宮 陸孝 牧師 |
| 「自分に銘じられたことをみな果たしたら、『わたしどもは取るに足りない僕です。しなければならないことをしただけです』と言いなさい。」（ルカによる福音書17:10） |
| 本日の福音書の日課は１３章２２節にエルサレムへ向けての第二回目の旅の言及があり、そこからエルサレムへ向かっての旅の記録として描かれて来ていて、本日の日課の直後の１１節に「イエスはエルサレムへ登る途中、サマリアとガリラヤの間を通られた」という言葉で、さらに新たなエルサレムへ向けての旅の三回目の言及がなされていますので、本日の日課のところは、第二回目のエルサレムへの旅の記録の最後に位置しています。エルサレムに近づくに従って、つまり主イエスの受難の出来事に近づくに従って緊張が高まると同時に、主イエスによる弟子たちの教育と訓練も、そしてそれにもかかわらず弟子たちの理解のなさも、一層の緊迫した度合いを深めて行く中で、「弟子たる者の生き方」をイエスの教えを通して示そうとしていると見ることが出来ます。 エルサレムへの旅は十字架へと赴く旅でありましたが、主イエスによる弟子教育の旅でもありました。弟子たちにとって、この旅の途上で出会う一人一人との主イエスの掛け替えのない出会い、対話、働きの数々を目にしながら、弟子たちは主イエスの教えに耳を傾け、イエスに対して問いを繰り返しました。その弟子たちの問いを見ますと、主の教えに対する理解の深まりはおぼつかないものであり、情けないほどに彼らは何もわかっていないことが明らかとなります。この状況はこの後のエルサレムへの旅の終わりに至っても大きな変化は見られず、弟子たちは主イエスのすべてが全く分からないまま旅の日々を過ごし、主の苦難と十字架に直面し、散り散りに逃げてしまう無残な結果に至ることになるのです。 神様がわたしたちにご自分の意思を示され、それに対するわたしたちの側の理解を単純に人間の知的なレベルで言うならば、常にそうなる、わたしたちに於いてもそうなるということでもあろうと思います。しかし、主イエスはそのような人間の現実の向こうに、すべては主の復活と聖霊降臨を待って、一挙に実って行くことを見越しておられるのです。十字架から復活、そこに成就されるわたしたち罪人の救いという神様の一方的な恵みの御業、それを聖霊の導きによって、信仰の目が開かれるという主イエスの教えの流れをしっかりと見据えながら、わたしたちもまたこの主イエスのエルサレムへの旅を先を見越して教え続けられる主イエスの教えに傾聴して行きたいと思います。 １節から４節は「躓きと赦し」が語られます。主イエスのまわりには既に、直ぐそばに居る弟子のグループと、さらにその周辺を取り囲む弟子たちのグループなど、いくつかのグループが形成され、主イエスの旅に同行していたと思われます。また旅に同行しない人々もいたでありましょう。そうした人々が任意にまとまって集団を形成し、グループ毎にリーダーが出現していたとしても不思議ではありません。主イエスはこのような集団に向けて教え、警告をしているのです。 この世の躓きではなく、この集団の中で起こる躓きとは何のことか。一般に考えられることとしては、人間関係、金銭問題、男女問題、指導者の問題といった実際の生活上、あるいは集団維持の上に起こりうる問題です。しかし、それ以上に主イエスがここで言われている躓きとは、このイエスの旅に同行している群れの基本的な問題ではないかと思われます。主イエスが召し出された最初の弟子たちの小さい輪の中でも、「誰が偉いか」という論争が起こりました。この輪が大きく広がればさまざまな人々が出て来ても不思議ではありません。主イエスを中心とする群れの中に、自分自身を中心とする群れを形成する人物が登場してくることもあり得ます。それによって主イエスが教える神の愛、罪人の赦し、救いという中心部分が曖昧にされる事態も起こってくることがあります。主イエスはそのような「つまづき」の事態をここで警告したと見ることが出来ます。そこでは、躓く人よりも、躓かせる人が問題とされているということです。つまり人々を誤り導く者の危険が語られているのです。主イエスの福音を危うくし、ユダヤ教に戻る、あるいは異教との混淆（こんこう）に走り、あるいは主イエスからすら離れてその独自性を主張する教えや指導者が出て来ても不思議ではありません。この警告の中に主イエスは既に「正当と異端」と呼ばれる問題や危機を見越し、更に誤り導かれる人々の危機こそ深刻であることを指摘して、福音を正しく語ることの責任と厳しさに身を正さなければならないと諭されたのです。 そして、赦しの勧めに移ってゆきます。わたしたちは神の前では的外れな存在です。罪人であるわたしたちが、神の命をかけた十字架の贖いによる許しを深く受け止めるならば、人々の、兄弟たちの、あのことこのことに対して完全否定するような断罪をしてはならない。いや、出来ないはずです。問題ある人に対する対応は、率直な罪の指摘と、悔い改めと改善を期待して、神の十字架の贖いによる許しのもとに導く、それも「何度でも」つまり無制限にというのが基本的な対応であります。 主イエスはそのことを指摘して次に、信仰とは何かと言う問題に移ります。この中に、からしだね一粒ほどの信仰があれば、この桑の木に、『抜け出して海に根を下ろせ』と言っても、言うことを聞くであろう、という主イエスのとてつもない大変謎めいた言葉があります。なかなかイエスの真意が見えて来ないたとえです。 弟子たちが「わたしたちの信仰を増してください」と言ったというのですが、それに対しての主イエスの答えは、信仰を増してくださるような話ではなくて、「信仰を増してください」という弟子たちの願いに対して、イエスがお話になったのは、「からしだね一粒ほどの信仰があればこの桑の木に『抜け出して海に根を下ろせ』と言ったら、その通りになる」というのです。どうしてイエスはもっとわたしたちにとって実利的なこと、「病気がなおれ」と言ったら、その言葉通りになるであろうとか、「金持ちになれ」と言ったらお金が儲かるだろうとかいうふうに言われないで、ここにある桑の木に「海に根を下ろせ」などと言うようなことを言われたのでしょうか。 つまり、大変重い病気にある時に、お医者さんが努力をして、何十年か前には全治回復などと言うことはあり得ないと言われた結核が回復可能になったように、あるいは、たとえば癌で死亡するというようなこともやがてそのパーセンテージが極めて低くなるであろうとかいうことと、桑の木が海に根を下ろすと言うことは同じ事柄、人間にとって大いに有意義なことであるとは思えません。そこで、単純、率直に、このイエス様の語られたお話に帰って、そこから学ぶことが必要であると思います。 主イエスは実利的な意味をくみ取れないお話しをここで意図的になさっておられるとわたしは受けとめました。つまり、信仰を増してくださいと言う願いそのものが、実を言うと、主イエスにとってはまことに意味のない問いであったのだということです。イエス様のこのたとえを聞いて、弟子たちが一生懸命に訓練を重ねて、桑の木が海の中に根を下ろすような術を身につけたと言うような気配は何も見えて来ません。それは空恐ろしいほどに無意味なことであるからです。 同じようなことを、コリントの信徒への第１の手紙１３章で、パウロが「山を動かすほどの完全な信仰」ということを言っています。パウロの場合には単純にたとえですので、信仰の大きさというものを、山を動かす程の、まことに力強い信仰ということを言いたかったのでしょう。そういう力強い信仰が、わたしたちの生活の中で大きな役割を果たすということは、主イエスが指摘される通りであろうと思います。 しかし、そのような意味での信仰というのは、実は信仰ではなくて、それは言うなれば自分の自負心を増し加えるに過ぎないものであり、従って、「信仰を増してください」という問いに対しては、イエスは答えることは出来ないのだと思います。そこで、からし種一粒ほどの信仰があれば、桑の木が好き勝手な所へ行くようなことができるのだとこういうふうに言われるのです。しかし、現実には、桑の木が海の方へのこのこと出かけて行く筈がありません。また桑の木を海へ移してみたところで、あの人には信仰があるなどと関心する方がどうかしているということです。 ところが、一方でこの誠に奇妙で、おかしな信仰に感心したり、そういう形のものに憧れたりするようなことが、実は、わたしたちの信仰生活の中で錯覚として起こってくるのだと言うことをイエスさまはこの譬えを通して、そのばかばかしさをお話になっているのだと思われます。従って、このたとえはわたしたちの実生活にとってどんな意味も持たないのです。つまり、信仰というのは、わたしたちが考えられないような、見事な事をやってのけるというようなことの中で証しされるようなものではありません。そして、自分がからし種一粒ほどの信仰であっても、その信仰を自分が持っていると考えることが、実を言うと不信仰なのだと主イエスは言っておられるということになります。 そこで主イエスは次のたとえをお話しになった。それは、取るに足りない僕の話ですが、これも単純なお話しです。この僕が一生懸命働いて、夕方になって帰って来ると、家の主人はふんぞり返っていて「夕食の支度をしてくれ、腰に帯びを締め、わたしが食事を済ますまで給仕をしてくれ。お前はその後で食事をしなさい」といいます。それが僕というものであります。それに対して僕が晩ご飯を作り、主人に提供した時に、主人がそこで「良くやってくれた」と言っても、「わたしどもは取るに足りない僕です。しなければならないことをしただけです」というのだ、というのです。 「つまり、からし種一粒程の信仰があれば、と言う信仰のプラスの姿勢に対して、この僕の姿勢の中には、信仰をマイナスの形で持つということがあるのです。別のことばで言いますならば、「わたしに何かあるから、あなたが褒めて下さるのです」というようなことはないのです。「わたしはしなければならないことをしただけです」というところに実は信仰というものの姿があると言っているのです。これらの譬えは対をなして一つのことを言っています。 ここで考えなくてはならないことは、わたしたち自身もまた、しばしばごく当たり前のようにして、信仰を持つということが何か自分自身の所有を増やすような、自分の能力を増やすような、あるいは、それによって自分の評価を高めるような、自分の名誉や、地位や、知識を増やすような、そういうことであるかのように考えているところに、わたしたちの錯誤がある。ですから、わたしは、このイエスさまの「からし種一粒ほどの信仰があれば」という話は、そういう意味の信仰は不必要であるということをおっしゃったのだと思うのです。 信仰と言うことでわたしたちに必要なことはただただ神さまの救いの恵みに対する感謝だけであると言っているのが次の十人の病人を癒すイエス様の物語です。病人が癒されて健康になった。これほど嬉しいことはない。感謝をするということも、心の内ではあるかも知れない。大切なことは、そこで病気が癒されたことについて感謝をし、いやされた恵みに答えるところに初めて、信仰というものの積極面があるということです。自分の病気を自分の信仰で癒すと言うような気張った姿勢ではなく、むしろ二千年来礼拝の度毎に繰り返してきました「主よ憐れんでください」「主よわたしを顧みてください」「キリエ・エレイソン」ということばの中に、信仰の姿があるといっているのです。「わたしは不信仰なものでありますから、どうか神さま、わたしの中にからし種一粒の信仰を与えて下さい。そうすれば、この病は自分で癒すことができるのですが」というようなことではありません。信仰というのは「ただあなたの御旨のままに。あなたがお与えになる救いの恵みに対してわたしは、本当にふさわしくないものです。わたしはあなたの前でなすべきことをなしたに過ぎません。あなたがすべてをなさるのであって、あなたのなさる御業にわたしは従います」こういう応答ができるということがすなわち信仰ということであると言いたいのです。単純な言い方をするならば、信仰というのは、自分の中に何かを持つということではなくて、神がわたしたちのために成したもう救いの御業に対して自分を空しくすること、何も持たずただ神の無条件の愛のもとに立つことだ。それが服従するということだといっているのです。 主イエスはわたしたちの圧倒的と思える現実の罪の力の前に、自分を支えるもの、支えてくれるものを次から次へとはぎとられるようにして、ただただ無力な生涯を歩んで行かれました。最後には殆ど裸で、生命すらも奪われてしまいました。これは偉大な敗北です。しかしその敗北の中に、実は神の恵み、御業が表れる、これがイエス様の父なる神を信じ通す信仰の姿でした。 この傲慢なわたしたちの罪を贖い（あがない）、救い取ってくださった十字架の救いの恵みの働きの前に、わたしたちは神さまのなさることに対して心を開いて、わたしたち自身がすることに対して何も価値を置かないという、その生き方を信仰の歩みとして貫きたいと思います。 お祈りします。 神さま。永遠からあなたの御そばにおられた栄光溢れる御独り子なる神が、わたしたちのうちに宿り、腰に帯を締め、わたしたちの僕のようになり、わたしたちに成り代わって十字架の死を引き受けるほどにわたしたちを愛し、わたしたちを罪と滅びの中から救って下さいました。 その主は、わたしたちが罪から立ち直って、なすべきことをなすことができるように成長していきます時、それをわたしたち以上に喜び、感謝し、その主の喜びの中にわたしたちを招き入れて下さるお方です。 わたしたちが、あなたの救いの恵みに答えて、神さまの必要な働きに召し出され、それを果たし、なすべきことをなした時に、喜びと感謝をもって、「わたしどもは取るに足りない僕です。なすべきことをしたに過ぎません」と申し上げることができますように、わたしたちを導いてください。 キリスト・イエスの御名を通してお祈りいたします。 アーメン。 ◆ページの先頭へ |
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