1952年宣教開始 賀茂川教会はプロテスタント・ルター派のキリスト教会です。
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2024年11月礼拝説教
★2024.11.24 「神の真実の声に耳を傾けよ」ヨハネ18:33-37
★2024.11.17 「究極の希望」マルコ13:1-13
★2024.11.10 「貧者の一灯」マルコ12:38-44
★2024.11.3 「豊かな神の命を生きる」マタイ5:1-12
| 「神の真実の声に耳を傾けよ」ヨハネ18:33-37 2024.11.24 大宮 陸孝 牧師 |
| 「わたしは真理について証をするために生まれ、そのためにこの世に来た。」（ヨハネによる福音書18章36節） |
| ヨハネ福音書１８章２８節から１９章１６節までのところで、イエスがピラトの官邸においてピラトの前で裁判を受けたことを、七つの場面に区切られて記録されております。本日の日課はその裁判の第二の場面１８章３３節～３８節までの所です。この箇所は、ピラト総督邸内でのイエスと、ローマの地方総督との間で交わされた会話です。この官邸をピラト自身が出たり入ったりしながら、外部にいる当時のユダヤ人社会の指導者層とピラトの対話が展開され、内部では、主イエスとピラトとの対話が展開されるという場面構成になっています。 ３３節から３５節では官邸から出て行って祭司長たちの訴えを聞いたピラトは、また官邸に入りイエスを呼び出して「おまえがユダヤ人の王なのか」と訊問します。「ユダヤ人の王」は本来はメシアを指す宗教的な意味での王なのですが、ここでは政治的な意味での王に意図的に歪曲されていると見られ、ピラトは既に政治的な意味で問うているのです。というのは、宗教的な問題はピラトにとっては関わりのない所であったからです。その峻別を確認する意味で、イエスは「あなたは自分の考えでそう言うのですか。それとも、ほかの者がわたしについて、あなたにそう言ったのですか」（３４節）と逆に問い返したと思われます。ピラト自身自分から言うのか、それともユダヤ人がそのように訴え出たのかを聞いています。自分から言うことならば、その根拠を問いただすことが出来るし、他から聞いたことならば、単なる風潮であって、裁判の妥当性はなくなり、証人が必要になってきます。奇妙なことにここには証人も弁護人も登場していない。この裁判はこの世の秩序を超越しており、この世の通常の裁判として割り切れないところがある。ヨハネ１１章４９節から５１節に沿うならば、イエスは理由なく犠牲になったということの確認であると見ることが出来ます。 この訊問の内容は初代教会にとっても極めて重大だったことが窺えます。恐らくユダヤ人たちは、イエスを政治犯として訴えたであろうと推測されます。ローマの国家権力を介入させるには、そのようにすることが最上の手段とみられるからです。それは、イエスの死後、イエスの御名を信じて後に従った信徒たちにとっても、ローマ皇帝に忠誠を誓うかどうかということが、繰り返し彼らに対する迫害の争点となったからです。つまり、「イエスの王権」ということは、イエス自身の生涯においても、イエスを主と信じた人たちにとっても、実に生命を懸けた争点であったのです。これがピラトの審問においても、中心的な問題となったのは当然のことでありました。 このイエスの問い返しに対して、ピラトは「わたしはユダヤ人なのか。お前の同胞や祭司長たちが、おまえをわたしに引き渡したのだ。いったい（おまえは）何をしたのだ」と答えます。これはピラトにはユダヤ人の宗教的な事情を全く理解できていないことを表しています。ユダヤ人たちは、そもそもこのことの根拠を明白にして訴えるべきだったのですが、訴え方が曖昧であったことにもよるのです。このようにユダヤ人がイエスを引き渡した裏には、宗教的行為を政治的なものに変質させ、それによってイエスを処刑させようとする欺瞞（ぎまん）があります。「お前はいったい何をしたのか」は、ピラトがイエスに、ローマ帝国に叛逆するどのような活動をしたのかを、改めて問おうとしているのです。ピラトには、ユダヤ人たちの訴えが表面的な理由だと分かっていました。マルコ１５章１０節にはそのことが「祭司長たちがイエスを引き渡したのは、ねたみのためだと分かっていたからである」と明示しています。ピラトはユダ人たちがイエスを訴えたのは、なにが本当の理由なのかを問い正そうとしているのです。 ルカ福音書の続編である使徒言行録１８章１２節～１７節には、ガリオがアカヤの総督であった時、ユダヤ人がパウロを訴えて、「この男は、律法に違反するようなしかたで神を崇めるようにと、人々を唆し（そそのかし）ております」と言った時、ガリオは門前払いで、このように答えています。「ユダヤ人諸君、これが不正行為とか悪質な犯罪とかであるならば、当然諸君の訴えを受理するが、問題が教えとか名称とか諸君の律法に関してならば、自分たちで解決するがよい。わたしは、そんなことの審判者になるつもりはない」これは当時のローマ総督の考えをよく表していますが、ピラトもまさにこういう態度で、公人としても、私人としても宗教とか真理とかいう世界とは彼は全く無縁であったのです。しかし、何か不正行為とか、悪質な犯罪とかならば当然訴えを取り上げなければならない。 ２６節 「お前は何をしたのか」この問いはイエスの証言を喚起するものでありました。イエスの証言は３６節と３７節の二つの部分よりなり、３７節のピラトの問いによって中断されます。先ず３６節では、イエスは自分の王国について語ります。「わたしの国は、この世には属してはいない。もし、わたしの国がこの世に属していれば、わたしがユダヤ人に引き渡されないように、部下が戦ったであろう。しかし、実際、わたしの国はこの世には属していない」このイエスの言葉は、ご自分の王国が、ローマの支配と対立するようなこの世的、世俗的な王国ではないけれど、しかも「わたしの国」と言われるべき支配がこの世に厳然とあり、イエスは、その王国の王であるという明言であります。 ピラトの「おまえは何をしたのか」という問いにイエスは直接答えないで、イエスの王国とイエスの者たちは、この世に根を持ってそこから派生したものではない。その国はその源泉をこの世に持ってはいないし、この世から汲み取っているものでもない、したがって、本質から言って世とは結合してはいないと語ります。そして第二の論点は、この世から派生したものではないが、しかし、この世にある。そしてそれはこの世の終わりに、初めて天から現れる王国ではなく、今現にあるものなのだと語り、さらに第三点はそれは本質から言って、イエスが上からの者である限りすべての上にあるものであり、第四に、それはすべての上にあるがゆえに、イエスは信頼に足る証人であり、地上のもろもろの王の支配者である。その力を来るべき世に持ち、それは十字架と復活という事実の根拠に基づいて、その支配は今やこの世に広がり始めている。それは今このイエスの証言において生起しているという、つまり、「神の国」が今わたしにおいて生起し、広がり始めているというのが、「お前は何をしたのか」という問いへの答えであったということになります。 ３７節 それで、ピラトは「それでは、やはり王なのか」とイエスに問います。ユダヤ人による、ローマ帝国の政治的王位の簒奪者（さんだつしゃ）として訴えられたイエスは、その裁判において、この世の支配権の領域を持っていることを否定はしません。その支配の際にイエスの国の根はこの世にはないのですが、そうであれば一体イエスはどんな王であり、どんな国民がおり、どんな王国が、何処にあるというのか。ここではこの世の国と比較して否定的にではなく、その本質に即して積極的に、王、王国の本質、国民が語られます。イエスは真理の国の王であり、「真理について証しをするために生まれ、そのためにこの世に来た」「真理に属する人は皆、わたしの声を聞」き、それらの人たちは真理の王国の国民であるといわれます。この真理の王国はこの世とかけ離れたところにあるのではなく、この罪と偽りと死と暗黒のこの世の中に、光、生命、真理、義として打ち立てられている。それはわたし自身のことだと明確に答えたのです。 イエスが語り、証しをされる真理とは、彼が父なる神のもとで見たこと、聞いたこと、であります。イエスは父なる神から示された通りに語り、父から命じられた通りに語ります。イエスは父から与えられた言葉を告げ、父が彼に示された通りに行う。イエスの全生涯が真理のための証しであります。「証しする」という言葉は法廷用語で、何かが空しく語られるのではなく、自分の意見が無責任に語られるのでもありません。それは神のもとで見たこと、神のもとで聞いたこと、神に聞いたこと、つまり真実の言葉を語り、その語られたことについては、責任を負うということであります。 そして、そこで最も重要な問いが立てられることになります。それは「どのようにして」という問いであります。その答えは、その王国の王であるイエス自らの自由な自己を引き渡すという行為、命を捨てることによる愛の犠牲においてであり、それは、イエスの敗北、つまり十字架によってであります。主イエスは父から聞いた真理を自ら生き、語ることによって、真理を証しされるのです。今まさにこの時、生命を懸けて真理を証しされているのです。ヨハネ福音書においては、真理の根本的な意味は、創造主なる神としての現実的なリアリティーのこと、唯一の真の現実性とは、この神の創造の業のことを言っています。イエスは神の現実の創造の業を語るだけではなく、イエスご自身が同時に真理そのものなのだと宣言します。イエスは神の真理を啓示し、それだけではなく神の創造の出来事それ自体であるということです。イエスが肉となった言として、恵みとまことに満ちている（ヨハネ１・１）と言われるのは、イエスにおいて神の現実が、恵みの賜物としてわたしたちに出会うという意味で、霊と真理とをもって神を礼拝する者を求めておられると言われる時、それは真の神礼拝は神の霊の力と神ご自身の啓示とによって実現されるという意味になります。 「真理に属する者」とは、真理の証しをする者、また、真理そのものであるイエスの声に耳を傾ける者のことで、真理に耳を傾けるようにとピラトに勧告している言葉でもあります。ピラトはイエスの言葉に「真理とは何か」といって、審問を打ち切ってしまいます。これによって、ピラトは光に来ようとしない者、霊的に全く無感覚な者として、逆に裁かれることになります。ピラトにとっては真理などとは本来無縁のものであり、ピラトの唯一の関心であるイエスが政治的謀反人であるかどうかということについては、訴えられているような罪は少しも認められなかったということでありました。 ピラトとは一体どんな人であったのか。何をしたのか。何をしなかったのか。ピラトは、真理の王であるイエスのいます官邸の内と群衆と祭司長たちのいる外、殺意と虚偽と謀略（ぼうりゃく）に満ちた闇の世界、この内と外とを出たり入ったりする男として描かれています。ピラトはイエスが無罪であることを確信します。さらにイエスが真理の王であることを示されますが、これには全く関心を示しませんでした。そしてずるずると自分の意思に反して、外にいるユダヤ人たちや群衆の片棒を担ぐことになってしまいました。自分の信ずるところに従って、決断し、イエスを無罪放免するか、保護監禁か、その他いずれかの処置をすべきでありましたが、この決断を避け、代替案を提示し、正当であるが困難な道を回避してしまうのです。どちらにも決断せず、局外中立であろうとしたピラトは、結局は意思に反してイエスを十字架につけることを余儀なくさせられたのです。これは国家による教会の迫害ではなく、むしろ偽りのユダヤ人指導者が、国家権力を自分の偽りの奸計を遂げる手段として濫用、悪用し、真理を抹殺しようとしたということであり、主イエスを裁いているピラトも、群衆も、祭司長たちもついには自分たちが気づかずして、自分たちの絶望的な罪の真の姿を暴露してしまっているのです。イエスはこれらの人々の罪を、ご自分の真理の光で照らし出し、明るみに出しながら、その罪を購（あがな）う十字架へ赴（おもむ）こうと、神の国の王として決断しているのです。 お祈りします。 十字架の主イエス・キリストの父なる神様。主イエスは信仰だけではなく、この世の政治の的外れ、罪の醜さ、弱さを全て負ってくださり、十字架の死を遂げて、わたしたちを一切の罪の束縛から解放し、自由にしてくださった御恵みを、今朝改めて示されて感謝致します。どうか、わたしたちが再びこの世の罪の束縛と不自由の霊に捕らわれ、支配されることがないように、わたしたち一人一人があなたの救いの真理にしっかりと繋げられて、信仰の自由を貫いて生きて行くことが出来ますように導いてください。 御子わたしたちの主イエス・キリストの御名を通してお祈り致します。 アーメン ページの先頭へ |
| 「究極の希望」マルコ13:1-13 2024.11.17 大宮 陸孝 牧師 |
| 「しかし、まず福音があらゆる民に宣べ伝えられねばならない。」（マルコによる福音書13章10節） |
| マルコ福音書を連続的に読んでおります。イエスは遡ること１１章１５節以下で、エルサレムについて早々、神殿に於いて宮清めを行い、承認を追いだしました。本来は、「すべての人の祈りの家」であるべき神殿が「強盗の巣」になってしまっていることに対する激しい批判でありました。そのあとの「権威についての問答」から「ダビデの子についての問答」へと続く話しでも、本来のあるべき姿を見失っている祭司長や長老たちなどを、厳しく批判しました。 １３章に進みますと、その神殿での長い一日が終わって、「イエスが神殿の境内を出て行かれ」（一節）てベタニヤに帰る途上で、いよいよ受難と死の近いことを予期されたイエスは遺訓とも言える最後の教えを、神殿崩壊預言から始まって、終末の前兆としての艱難、その徴、そして終末時の人の子の到来と、世の終末の時にまで視点を広げ深めて長い教えを語られて行きます。共観福音書の小黙示録とも言われている箇所でもあります。 黙示とは、神が定められた歴史の終末について人に啓き（ひらき）示されるという意味です。歴史的には、ユダヤにおいては、バビロン・アッシリア捕囚による亡国後に預言が絶え、その後、ペルシャ帝国やローマ帝国による弾圧と迫害の中で、預言者に代わって預言の実現をめぐり、来たるべき時、終末の出来事と、この今の世での前兆について記された黙示文学いわゆる宇宙的終末論の思想が現れます。紀元前後一～二世紀に亘るもので、旧約聖書ではダニエル書、新約聖書ではヨハネ黙示録がそれです。その他Ⅰテサロニケ四章１３節～１８節、Ⅱテサロニケ２章１節～１２節、Ⅰコリント１５章５１節以下などの断片があります。 １節～２節 １１章１２節でイエスと弟子たちがベタニアを出て、エルサレムに到着し、宮清めをし、激しい神殿批判をしてから三日目の夕方でした。神殿を出てベタニアに帰られる時の弟子とイエスとの会話です。「先生、御覧下さい。何と大きな石、何と立派な建物でしょうか」ヨセフスの古代史によりますと、紀元前２０年に建築開始以来半世紀、豪華を極めたヘロデ大王の建てた神殿で、外壁はまだ建築中、純白の大理石を材料とし、金をもって覆われていたようです。建物の壮麗さに弟子たちはただただ圧倒され驚嘆し、畏敬の念に打たれています。しかし、イエスはその異様を誇る神殿が「一つの石もここで崩されずに他の石の上に残ることはない」日が来ることを預言されます。このイエスの神殿崩壊の預言的発言は、ユダヤ人すべてを驚かせ、特に役人たちを怒らせ、これが最高法院（サンヘドリン）でのイエス裁判の訴因の一つとなりました。（１４章５８節）それから四十年後の紀元７０年にこの神殿はローマ軍との間に起こったユダヤ戦争によって現実となり、神殿は徹底的に破壊され灰燼（はいじん）に帰することとなりました。神殿崩壊は旧約の歴史の中で、イスラエルの民が悔い改めないことに対しての滅びの警告として、預言者がたびたびそのことを預言して来たものでもありました。（ミカ書３・１２、エレミヤ２６・１８）。この預言はイエスの神殿批判の結論であると同時に、、５節以下のイエスの黙示的な教えに繋がる状況設定でもあります。 ３節～４節 ここで場所がオリーブ山に変わり、谷を挟んで向こうの丘のエルサレム神殿に向かって座り、ペトロ、ヤコブ、ヨハネ、アンデレの質問に答えるという形で、イエスの教えの言葉が導き出されて行きます。少数の弟子たちが密かに尋ねたのは、これまでも度々ありましたように、弟子たちの理解のなさを指摘しているとも見られますが、弟子たちもイエスと共に世に隠されている真理・神の国の奥義を何とか広く人々に伝えようとしての質問と取ることも出来ます。神殿で語られた神殿崩壊というあまりにも恐ろしい言葉に、その場では弟子たちは声も出ない状態であった。オリーブ山に着いて初めて思い余って四人でお尋ねしたのでしょう。弟子たちの神殿崩壊についての質問は、一つは、「そのことはいつ起こるのか」という問いです。もう一つは、その際には「どんな徴があるのか」という問いです。神殿が跡形もなく崩れ去るような事態は極めて異常なことですから、弟子たちは神殿の崩壊だけでなく「そのことがすべて実現する時には、どんな徴があるのですか」と、神殿崩壊と終末とを結びつける聞き方をしたということです。 ５節～８節 そこでイエスは、弟子たちの問いに答えて話し始められますが、二つの質問に厳密に答えるということはなさらず、「いつ起こるのか」という第一の質問には答えられないで、主として世の終わりに関して答えておられます。「最後の艱難」の時ににせキリストが起こる（２１節以下）がしかしそれらの日々の後に、世の終わりと人の子の到来を迎える（２４節以下）と続いていますので、神殿崩壊はこの世の終末の最後の前兆または象徴であると同時に世の終わりそのものを意味する程の緊迫したものとして表現されています。これから起こるイエスの十字架の死と神殿崩壊の時、そして終末の時（人の子の来臨の時）この三つの時は、未だ（未完了）と、今（現在完了）とが限りなく緊迫し近接した連続の時として表現されていて、それは、イエスが「時は満ちた、神の国は近づいた」（１章１５節）時のことと同じで、潮が満ちるように終末の時が限りなく切迫したことが言われているということです。 イエスが先ずお答えになったのは、「人に惑わされないように気をつけなさい」という警告でした。惑わされないように気をつけなければならないのはまず、「わたしの名を名乗る者が大勢現れ、多くの人を惑わすということです。わたしの名を名乗るとは、イエスという名前ではなくキリスト（メシア）という称号のことです。自分がメシアだと称する者、あるいはイエスから遣わされたと主張して、イエスの権威に訴えて教える者のことを指します。ヨセフスの「ユダヤ戦記」によりますと、この時代特に紀元６６年～７０年の間にキリストを名乗る者が多く現れたとあります。彼らは、ユダヤ戦争を世の終わりに結びつけて、人々に向かって戦いに立ち上がるよう熱狂的に扇動した人たちと考えられます。その惑わす者たちは、熱狂的な終末接近の思想をもって、戦争への危機感を終末への不安と恐れにまで高め、人々を大混乱に陥れます。初代教会には彼らに惑わされ、終末が今すぐにでも来ると信じて熱狂的になっていた人たちもいたと思われます。イエスはそこで「慌ててはいけない」と、驚いて動揺し恐怖に取り憑かれることがないように戒められます。七節では、まだ世の終わりではないと明確に語られます。この後の教会の歴史にも次々とにせキリスト、にせメシアが現れ、彼らへの警戒と警告が、今度は弟子たちから教会に呼びかけられることとなって行くのです。 次いでイエスは、終末の前兆として、「民は民に、国は国に敵対して立ち上がり、」また「大規模な人災が人々を苦しめる」と語り、その上に、方々に地震や飢饉などの大規模な天災も生じると語ります。それらは人間には非常に大きな苦難を意味しています。しかし、これらは「産みの苦しみの始まり」であると言われます。にせメシアの出現、戦争、地震、飢饉、自然災害、人災これだけそろえばそれはまぎれもなく「終末の前兆」だと受け止め、イエスの再臨のときが来たと信じて、熱狂的な信仰に燃えた人がいたのも事実であったであろう。しかし、イエスはそうした「前兆」とみなされる出来事を直ちに終末に結びつけることを禁じているのです。 終末が近い、あるいは終末が来たと理解する人の行動にはある特徴が見られます。日常生活が全く顧みられなくなります。終末に直面していると考えれば、日常的なことがらは全く些細なことになり、それらに没頭することにはもはや何の意味も価値も持たなくなるのです。こうして多くの人が浮き足立って、今の与えられている現実を地道に着実に生きることを放棄してしまうことになります。イエスはこうしたはやまった行動と誤った熱狂的な信仰に、厳しい批判をしているのです。 「産みの苦しみの始まり」ユダヤ戦争を始め、にせメシアの出現、地震、人災、自然災害、飢饉、その他様々な苦しみが重なる時代の苦しみが描かれます。マルコの教会はこのような時代の苦しみの中に生きていたのです。弟子たちと教会は、終末以前のこれらの苦難の時を忍耐を持って生きて行かなければなりません。終末の接近を感じて、日常生活を放棄するのは正しい態度ではない。なぜなら、終末はこの世の終わりということではなく、わたしたちの命の完成の時だから、終末がやって来ることによって、それまでの生活が無意味になるのではなく、わたしたち一人一人の生きる意味が明らかにされる時と、究極的な希望を与えて、すべての苦難に耐えさせようとしているのです。 ９節～１０節もマルコとマルコの教会の生きた歴史的な状況を色濃く繁栄しています。ここでは、この苦難の時を生きる弟子たちの迫害の運命と宣教について述べられます。９節は、イエスを救い主であるキリストと告白する者が捕らえられるという、一層苦しい弟子たちが経験する苦難が挙げられます。弟子たちは、ユダヤ人からも、ローマ人をはじめとする外国人たちからも迫害され、イエスのゆえに地方法院に引き渡され、会堂で打ちたたかれ、また、ローマ総督や王の前に立たされて証しをさせられるのです。「証しをする」は、イエスはキリストであると大胆に告白して福音の真理を証明することです。こうして弟子たちは、終末に先行する迫害の中で、イエスと共に受難の道を歩むことが求められて行くのです。弟子たちの苦難は、「イエスのため」の苦しみですが、それは福音のための苦しみでもあります。 １０節には、「先ず福音があらゆる民に伝えられねばならない」という重要な言葉が挟み込まれています。「ねばならない」は「神の意志が貫いている」との宣言です。イエスは、様々なこの世の苦難は世の終わりではなく、「産みの苦しみの始まり」だと語られ、命の救いを産み出す為の苦しみである、だから、９節で「あなたがたは自分のことに気をつけて」他のものに目を奪われないように、と言われたのです。自分に気をつけるとは、自分のアイデンティティーをしっかり確認しなさいと言うことであるとわたしは受け止めました。この自分とは、福音、喜びの知らせを伝える任務を負わせられた自分です。 福音を語ったために捕らえられて弁明をしなければならなくなったり、福音を信じたことで家族の絆が引き裂かれることもあるだろう。しかし、そこで、自分を生かしている喜びの福音の中に立ち続けることが出来るように気をつけていなさい、とイエスは語っておられるのです。 旧約聖書の預言書で世の終わりのことを語っている言葉と、イエスが世の終わりについて語っている言葉とを比べますと、大きな違いがあります。預言者たちは繰り返し復讐を語りました。今、神の民である自分たちはこんなに酷い目に遭っているけれども、世の終わりが来れば自分たちを苦しめる民は自分たちに仕える者となる、というような復讐の思いです。これに対して、イエスは、わたしたちの復讐心を満足させるような神の勝利を約束してはおられません。イエスの終わりについての言葉は喜びに満ち、喜びのメッセージに満ちています。あらゆる民に、福音、喜びの知らせが語られ告げられるのです。戦争の最中にも、悲しみや、苦しみの最中にも、自分を苦しめている人々に向かっても、あなたがたのために喜びの光が射したと証することができる、それがあなた方の立つべき所であると言われるのです。 このように自分が立つことが可能になる。そこに何が働いているのかを明らかにしているのが１１節の言葉です。「引き渡され、連れて行かれるとき、何を言おうかと取り越し苦労をしてはならない。そのときには、教えられることを話せばよい。実は話すのはあなたがたではなく、聖霊なのだ」迫害の中においても、裁判においても福音を証するのは究極的には、弟子たちを通して働く聖霊なのだから、聖霊の導きを祈り、聖霊の導きに寄り頼み、聖霊に導かれるままに語りなさいと、聖霊を弟子たちに約束されます。 「聖霊が語る」その声は、内なる神の声、さらには新約聖書では内なるキリストの声です。御心に一途に従わんとして神の御言葉を聞き取って行く中で示される神の声です。キリストを真に神の御言葉の中に私心を入れずに、信仰において真に受け止めているかどうかを、厳しく問われています。キリストに身を賭して従わんとして受ける苦難の中でこそ聞き取ることができる御言葉のことです。 その神の恵み深いお言葉は、本日の日課の少し後を読みますと、「そのとき、人の子が大いなる力と栄光を帯びて雲に乗って来る」（２６節）との約束に繋がって行くのです。わたしたちが聖霊の力に支えられてその大いなる約束が成就するまで信仰を貫くことができるようにわたしたちに厳かに語られているのです。 お祈りをします。 わたしたちのこれまでの信仰の歩みをあなたの御言葉によって支えられ、導かれて来ましたことを感謝致します。今朝も御言葉を通して、わたしたちのこの地上での大きな試練と苦しみに直面している状況の中にもあなたの救いの御業が働いていることを示されました。ただ目先のことに追われて日を過ごしがちなわたしたちに、わたしたちの信仰もまた大きな試練に直面させられることを示されました。この世の罪の現実に惑わされることのないしっかりとした信仰に立つ歩みを歩んで行くことが出来ますように、わたしたちを御言葉によって導いてください。この世に働いているいろいろな罪の現実の厳しい状況の中で、耐えております方々に平安と希望をお与えください。またその状況に惑わされている人々をどうかあなたの正しい救いの道へと導き帰してください。 この祈りを主イエス・キリストの御名によってお祈り致します。 アーメン ページの先頭へ |
| 「貧者の一灯」マルコ12:38-44 2024.11.10 大宮 陸孝 牧師 |
| 「皆は有り余る中から入れたが、この人は、乏しい中から自分の持っている物をすべて、生活費を全部入れたからである。」（マルコによる福音書12章38節） |
| １０月２０日までマルコ福音書を連続して学んで参りました、本日の日課のマルコ福音書１２章３８節から４４節はマルコ福音書の重要な区切りとなる箇所であります。少し遡り１０章以降の流れを見てみますと、三度目の受難予告がなされ、イエスと弟子たちの一行はエルサレムに上り、神殿を中心に活動が展開されて来た中での締めくくりの部分になります。マルコ福音書で三回繰り返されてきた律法学者たちとの論争の第三論争の最後の部分に当たります。ここに続く１３章も場面は神殿中心でありますが、内容は主イエスによって黙示的預言が成され、１４章に進むと主イエスの受難の出来事がいよいよ展開されて行きます。 本日の日課の中に展開されている主イエスと弟子たちの一連の出来事を見てみますと、この直前までエルサレム神殿で展開されてきた主イエスとユダヤ指導者たちとの論争に終止符が打たれ、それら論争の中で浮き彫りとなった根本的な問題点の内容を明らかにしていると見ることが出来ます。本日の日課以後は最早論争ではなく、主イエスを殺害する場面へと突き進んで行くこととなります。主イエスは十字架の受難の出来事の直前で、神の民の信仰のよりどころであるエルサレム神殿とその周辺に顕わとなっている、神の裁きを受けなければならない罪の現実を、ごくごく日常的な光景の中に見抜いておられるのです。 イエスは本日の日課の直前の３７節前半で「大勢の群衆は、イエスの教えに喜んで耳を傾けた」という編集句によって、イエスの教えが「群衆に向けて」語られたものであり、それを受けて３８節の「イエスは教えの中で」と展開して行く、そこで律法学者の名誉欲、貪欲、偽善的敬虔に対して注意するようにと教えられ、そして律法学者に対して厳しい裁きの予告がなされていくのです。イエスはこれまでも、ファリサイ派とヘロデ党の者のパン種に気をつけよと弟子たちに警告したことはありました（８・１５） ３８節～３９節 イエスの警告は、律法学者らの教えに対するものというより、実際には律法学者たちの態度、振る舞いの弾劾でありました。これらは、伝統社会での貴族階級の特権的行動に当たるものを列挙しているとも言えます。過度に飾り立てた長い衣を着る（ルカ１６・１９）。人前に出たときには民衆の挨拶を受ける。公的な集会では上座に座る。そして仰々しい祝宴を思いのままに開くなどです。律法学者もこういう名誉欲に捕らわれているということです。初期のラビの習慣によりますと、人々の間で挨拶をする場合、律法の知識において劣っている者が先ず挨拶をしなければならず、裁判の場では知恵の評価に従って席次が決められ、会堂では、最もよい席は学者たちのものであった、ということです。これらの律法学者の行動はどこから来るものなのか。人の内側に何かそのような行動に駆り立てる力が支配しているということになります。まさしくそれは罪の支配の力であります。主イエスのこの教えの言葉に関する限りでは、外見で人を判断してはならないのではなく、人は内も外も別々ではないこと、さらに言えば、神に栄光を帰すのではなく己に栄光を帰そうとする力に支配されていることが明らかにされているのです。 律法学者たちは他の人より深く神について学び、その知識を得ていました。そうであれば、本来その学識は神を深く畏れ、神の愛に触れて、心からの賛美が生まれる筈でありました。１２章に伝えられている主イエスと一人の律法学者との最も重要な掟を巡っての場面に遡りますと、「『心を尽くし、知恵を尽くし、力を尽くして神を愛し、また隣人を自分のように愛する』ということは、どんな焼き尽くす捧げ物やいけにえよりも優れています」と「適切な答え」がなされ、「もはや、あえて質問する者はなかった」と論争に終止符を打っているようにも受け止められる内容が伝えられています。 律法について知識として正しく答えることができても、律法に従って生きることができない律法学者。律法の前に立ち往生し、律法に命じられていることをなし得ないで、それに反することだけをしてしまう律法学者。ここに取り上げられている律法学者とは、特別の人のことではなく、わたしの罪人としての姿に他なりません。 ４０節の攻撃的な非難は、富める者への預言者的告発という感じのするものでありますが、これも、律法学者だけが貪欲であり、偽善的敬虔の虜であるというより、人間の指導的立場に立った者の陥る一般的な傾向であり、エルサレムの律法学者たちがエルサレムの祭司的貴族階級と結びついて、このように言われても仕方がないような現実があったのだろうと推測されます。これまで繰り返されてきたイエスとユダヤ教指導者との論争は、これ以後報じられなくなって行きます。その最後の律法学者に対する厳しいイエスの言葉は、イエスとユダヤ教指導者との関係が完全に断絶したものとなったことを示しています。 律法学者へのこのイエスの厳しい批判の言葉は、引き続き律法学者と厳しく対立することになるユダヤ人キリスト者にとっては、身近な問題であっただろうと思われますが、しかし、この後、異邦人社会に宣教が進展して行くにしたがい、律法学者と直接接触することが失われて行くにつれて、イエスのこの言葉は別の意味合いを持つようになって行きます。律法に精通し、律法に示された神の意志に深く精通していたはずの律法学者が、神の御旨からは最も遠い所にいた。それはまた、キリストを信じる者にも起こり得ることであり、信仰者が自分自身のあり方を見つめなおす時の自己検証の基準となっていったのです。 ４０節で「やもめの家を食い物にする」律法学者に対して非常に厳しいイエスの批判の言葉を記したマルコは、それに呼応するように、その直後の４１節以下に「生活費全部」を捧げた貧しいやもめの印象深い挿話を置いています。この部分は論争を終結させて新たな展開へと移ったのではなく、論争の結論として明らかとなった「神の真理」が、律法学者たちによってではなく、一人の貧しいやもめを通して示されているのです。エルサレムの神殿においてユダヤ教指導者たちはそれぞれの持ち場で、神を礼拝する専門家としてその責任を負っていた者たちでありますが、しかし、そういう指導者たちは退けられ、真に礼拝する者の姿が一人の貧しいやもめに象徴されて行くのです。 ４１節～４２節 神殿の賽銭箱の真正面に座って、賽銭箱にいろいろな人が進み出ている光景を主イエスが見ておられました。その光景はとりたててめずらしいものではなく、神殿でのいつもの日常的な光景で、群衆も弟子たちにとっても見慣れていた光景であったであろう。しかし、主イエスはその中で見逃してはならない一点を凝視しておられます。この場面には「大勢の金持ち」が登場し、彼らはたくさん献金をしています。主イエスは前の場面でユダヤ教指導者たちの立ち居振る舞いをよく見ておられたように、ここでは、賽銭箱に向かっている一人一人の仕草を見ておられ、その外見、立ち居振る舞い、その表情も見ておられたでしょう。その中で大勢の金持ちの献金をする様子は多くの人の目を引いたことであったでしょう。しかし、主イエスはこの大勢の金持ちではなく、これらの人々の影に隠れるようにしてやって来た一人の目立たないやもめを注視されます。「イエスは弟子たちを呼び寄せ」ます。弟子たちをこの目立たない、小さな一点に向けて招集されます。律法学者の立ち居振る舞いに触れた前の場面では、主イエスの呼びかけは、主に群衆に向けてなされたものでした。しかし賽銭箱の前にいるやもめに注目しているこの場面では、強い意志を持って弟子たちを呼び寄せて、しかも「はっきり言っておく」と念を押すように注意を喚起しておられます。ここにイエスの重要な着眼点があることを示しています。 このやもめが献げたお金が、金額からすればわずかなレプトン銅貨二枚（現代の日本円に換算すると七十円銅貨二枚相当）であったことに注意が向けられるのですが、イエスが注目しているのは、ここでもやもめの立ち居振る舞いすべてとなっています。献金を献げようとしたその手元の金額だけを気にしているのではありません。彼女の人格全体をはっきり見ておられるのです。ほんの少額ではありますけれども、銅貨二枚ならばそのうちの一枚は手元にとっておくこともできたでありましょうに、二枚とも全部献げて貧しさそのものを献げるその様子をイエスはしっかりと見届けておられるのです。金持ちがたくさん投げ入れたとしても、それは生活費のほんの一部だったということと対比して見ておられたということです。金持ちはその持ち物の一部を献げたに過ぎませんが、彼女は生活のすべて、つまり彼女自身を献げたのです。しかもこの後に、イエスは彼女に何の保証を与えておられるわけでもありません。 イエスはわたしたちの内側と外側とが密接に繋がっていることを見抜いておられます。外側に現れていることは実は内側にあるものの現れであります。このやもめの心の内側に満ち溢れているものが決定的であるのです。外側に見え出ているものは、実は見えない内側にあるものを如実に現しているということです。律法学者の場合はそれは自分と他者と神への欺瞞であったのに対して、やもめの場合は、神への全面的な信頼と感謝であったということです。わたしが説教につけた題「貧者の一灯」とはこのことです。 ４３節～４４節 「弟子たちを呼び寄せて」は、弟子たちを含むイエスを主と信じたこの後の教会の人々に向けての発言であることが明らかであります。極めて具体的な宗教的社会的権力者と被抑圧者の対比を通して、神の前での人間の評価の基準を印象深く示し、描き出そうとするものであります。「エルサレム神殿」というものは、このような寡婦のぎりぎりの生活費までをも吸い上げた所に建てられているものであり、神はそんな神殿の存在を決して許すことはないとの宣言として受け止められます。そのようなイエスの神殿への怒りが、次の一三章の「神殿崩壊」の予告へと結びついているのです。 やもめにとって「レプトン銅貨二枚」は本当に「自分の持っている物すべて」であり、「生活費」全部でありました。他に残して持っているものは一切ない。ここで言われている「生活費」とは、もともと彼女が生きていることすべてを指す言葉です。神殿の庭に設けられている賽銭箱の前にいるこのやもめの姿を多くの人が目にしていたでありましょう。その中で主イエスは、この自分の生きていることすべてを差し出している一人の人を見過ごしにすることはなさいません。主イエスはこれから、自分の命を差し出す十字架の出来事が差し迫っていることを自覚しながら、このやもめが自分の命を差し出す姿を見届けておられるのです。 弟子たちを呼び寄せてお語りになった言葉をよく読みますと、主イエスはこのやもめの献金の様子を感心な行動だとほめているわけでもなく、聞いていた弟子たちに、このように献金する者になりなさいと勧告しているわけでもありません。一切そういう言葉を発しておられない。主イエスの十字架の出来事が始まろうとしている直前に偶然にこの時のユダヤ社会に信仰深い女性がいてその女性にイエスが出会ったと伝えているのでもありません。そうではなくて、このやもめが献金している光景に目を留めておられるイエスのこと、ご自分の十字架への道と重なり合って行く所が重要なのです。そこにあるのは己が命を差し出すほどに神を慕い、感謝と賛美を献げ、応答しようとしている信仰です。 主イエスに呼び寄せられ、やもめの献金の様子を聞かされた弟子たちにとって、ここで確かなことは、弟子たちはここで主イエスご自身によって呼び寄せられ、語気鋭く迫る「はっきり言っておく」に始まる言葉を聞いたということです。この言葉は献金に関する勧告ではありません。己が命を十字架の死へと差し出しておられる方が、神の前にすべてを献げようとした一人の人を受け止めてくださっているということです。主イエスは弟子たちを呼び寄せてくださったようにわたしたちをもこの光景の中に呼び寄せてくださり、恵み深く命を生きるために与えてくださる様々な賜物に対し、それら一切を挙げて神の前に信頼と感謝と賛美を献げる者としてくださっているのです。 お祈りいたします。 イエス・キリストの父なる神様 今朝もわたしたちに御言葉の豊かな養いをお与えくださいましたことを感謝致します。わたしたちは自分自身で自分の生活を満ち足らせようとして必要以上のものを貪（むさぼ）り求め、思い悩む者であります。どうか、わたしたちが神の国を求め、あなたの御言葉に聞き、あなたの御旨を尋ね求め、あなたに命と生活全体をお捧げし、神様の御旨が成るようにすべてを委ねて、安らかに日々を歩むことができますように、信仰の心と、聖霊の豊かな導きとを与えてください。 この祈りを主イエス‥キリストの御名を通してお祈り致します。 アーメン ページの先頭へ |
| 「豊かな神の命を生きる」マタイ5:1-12 2024.11.3 大宮 陸孝 牧師 |
| 「心の貧しい人々は幸いである、天の国はその人たちのものである。」（マタイによる福音書5章3節） |
| 今日の時代、自分の老いと死を思う時、家族にいつも大勢に囲まれて、神の恵みに活かされて来たことに感謝しつつ、この世の生涯を終わりたいと誰しもが改めて思うのではないでしょうか。そのような時に思いますのは、主イエスが言われた「子供のように神の国を受け入れる人でなければ、決してそこに入ることはできない」というみ言葉です。主われを愛す、主われを愛すと歌いながら、幼子のように生きたということがやはりわたしたち信仰者には相応しいのではないかと思うのです。 主イエスは未来を生きていく子どもたちを抱き上げて手を置いて祝福されましたが、それと同時に、そのご自分の祝福の手の元に、わたしたちをも、また、この世を去ろうとしている者をも、既にわたしたちの元を去って行った者をもすべてを招いていてくださる。どんなに歳を取っても、幼子のようにすべてをキリストに委ね、ただただ信頼して、その祝福の中に身を置く者、それを主イエス・キリストも、その父なる神も心から喜んで受け入れてくださるということです。 わたしたち一人一人にこの世の人生の幕を閉じる最後の時が来る、しかし、その時、人間のその痛みに苛まれた肉体も含めて、その存在のすべてが、み子主イエスの手にもう一度受けとめられていることを、わたしたちが信じることができる。そこには確かに深い悲しみがあるけれども、それと同時に、安らかな思いで、主イエス・キリストの祝福の手の中で、痛みに耐えながら、悲しみに耐えながら、安らかに招かれている神の国へ入るのを待望する、それが、子どものように神の国を受け入れるということなのではないかと思うのです。 わたしたちは主イエス・キリストの大きな祝福、確かな祝福のみ手の中に生を受け、しかしながら決して平坦な人生ではなかった、時には神を恨みたくもなる厳しい体験もして来た。しかし、それだけに、神の激しい愛をも知ることができたと、神の救いの恵みを明確に語ることもできるのだと思います。この世の罪の深刻な現実にも拘（かか）わらず、キリストの愛によって、その人生をどれほど慰められ、励まされ、力を与えられてきたことであろうかと思います。神さまのみ言葉がそのようにしてわたしたち一人一人の人生を支えてくださっていること、神の恵みがそのようにしてわたしたちの人生を勝利に導いてくださっていること、改めて神の祝福と深いなぐさめとがわたしたちの一人ひとりの人生のすべてに及んでいることに気づかされます。わたしたちの教会に連なる一人一人がそのように祝福されている群れであることがますます確かなものとなります。 ルーテル教会の歴史は１５１７年に始まりました、改革者ルターの問いかけから始まっております。この改革者ルターが死んだのは、１５４６年の２月１８日であります。ちょうど、ルターが死にまして４００年が経ちましたときに、ドイツの各地において、ルター没後４００年の記念の催しがありました。その一つで、あるドイツの優れた神学者が説教をいたしました。その説教の最後の言葉を紹介します。「ルターの死はわたしたちに何を教えてくれているのであろうか。それは正しく死ぬこと、そして真実に生きること」。ただ生きるとか死ぬとかいうのではなくて、与えられた命を正しく生き、真実に生き、正しく死ぬ、真実の死に方をするということは、容易ならないことであります。そして近年わたしたちが取り組み始めているのは死の備えをするということです。死の備えをする中で次第に明らかになって来ているのが、死の備えに真剣に取り組むことによって、本当に良く生きる、正しく生きる事ができるということです。死の備えと言うときにわたしが思い出しますことは、ローマ書６章３節のみことばです。「あなたがたは知らないのですか。キリスト・イエスに結ばれるために洗礼を受けたわたしたちが皆、またその死に与るために洗礼を受けたことを」。 洗礼を受けるということは、キリストとともに死にキリストとともに生きることである。洗礼を受けて以来わたしたちはどんな時にもひとりではなかった。イエス・キリストとともに生きることができ、そしてやがて死の瞬間が来た時にはキリストとともに死ぬ。死の瞬間にも主イエス・キリストの救いの御手にしっかりと捕まえられている。十字架の主と共に死に復活の主とともに復活する。１８歳の時に洗礼を受けたことが既に高齢になった時の自分の死の備えになっていた。その意味から言いますと、わたしが信仰を与えられた時からの人生の中で、ずっとわたしの人生の伴侶として共にいてくださった恵みの主イエスから、神の愛と祝福をずっと受けていた、そしてその愛に生きることができたのだと、改めて思います。教会で一人の信仰者として生きる一番心の深い所で、神と向かい合い、自分の魂の奥深くに主イエスを迎え入れて、主イエスとの人格的な交わりの内に真実に生きることを求め続けていくことが一番大切なことであると思います。宗教改革者ルターは、生涯をかけてそのことをわたしたちに語ろうとしているのです。真実の信仰とはわたしたちを一人一人その永遠の命に繋いでくださるために、わたしたちに呼びかけ、救いの恵みの御手を差し伸べていて下さる神に全幅の信頼をおいて応答していくことであります。 ルターはこの和解の福音に立ち、神に応答し、神の救いの働きに参与することによって、神のために生きる者へと変えられて行きましたが、それは、同時に同胞から迫害され、攻撃されることになりました。神の「憐れみ」「清さ」「平和」のために生きることによって同胞からの迫害を受ける、これは同じく神の人間の救いの働きに参与する者が、忍ばなければならないことでした。真の信仰とは選択であり、決断であります。ですから、信仰者は八方美人的に何に対しても「はい」「はい」と返事をするわけには行きません。神の御言葉に立つ、そこから人々の意見や要求に抵抗して、主の道を歩む場合も出て来ます。それによって非難や迫害が生じたとしましてもわたしたちは「人間に従うよりも、神に従うべきである」（使徒言行録５：２９）と心を決して、その苦しみを忍んで、神の人間を救う働きに応答して行く、そのような人生を歩んでいくこと、すなわち「キリストと共に死に、キリストと共に生きる」ことであると思います。 ルターは神の名を呼ぶことを自分のよろこびとし、またそれを支えとして、神の名を呼び続けて生涯を終えた人です。そしてその生涯の間、いつも聖書の御言葉を仲立ちにして語り、聴き、理解し、そこで神は生きておられると声高らかに証し続けたのです。わたしたちもルーテル教会に連なる者として、この幸いな神との深い絆の中で生きた信仰の生涯の後を歩んで行きたいと思います。 お祈りをします。 主イエス・キリストをわたしたちの贖（あがな）いのための供えものとし、またその主を甦（よみがえ）らされた父なる神さま。 いま、わたしたちはわたしたちの教会に連なるあなたの元に召された兄弟姉妹の方々を覚えて礼拝を献げております。わたしたちの教会の歩みはこの方方と共に今の教会の群れの中にいる一人一人が、信仰の仲間として、慕い、愛し、励まし合って来た者、みんなが生死を超えてあなたの前に集っております。わたしたち一人一人が、すべてをあなたの救いの業に委ねて讃美の歌を歌うことができる恵みを感謝いたします。どうぞこの後のわたしたち一人一人の生活に於いて、わたしたちが真実のあなたのいのちの希望に生きることが出来ますようにあなたの御言葉を聞かせてください。 主イエス・キリストのみ名によって祈ります。 アーメン。 ページの先頭へ |
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