1952年宣教開始  賀茂川教会はプロテスタント・ルター派のキリスト教会です。

  

 「障がいをもつ人に対する『ルターの差別発言』に関する
日本福音ルーテル教会西教区の見解」
「障がいをもつ人に対する『ルターの差別発言』に関する
日本福音ルーテル教会西教区の見解」

      2019年7月14日  
      日本福音ルーテル教会西教区社会部長 沼崎 勇


障がいをもつ人に対する「ルターの差別発言」に言及する文章が、自閉症について紹介しているインターネット上の複数のサイトに、掲載されています。その文章の主旨は、「ルターが、自閉症と思われる少年について、悪魔に所有された魂のない肉の塊で、溺死させるべきであると考えた」というものです。

このようなマルティン・ルターの発言の出典は、『卓上語録』であるとされています。実際に、『卓上語録』(ハーバード大学叢書第10巻、1827年出版)の中に、同様の主旨の発言を見出すことができます。この英訳版は抄訳であり、障がいをもつ人に対する差別や偏見のあった時代に出版された本です。

現代では、批判的な注釈をつけなければ、このような差別発言を載せた本は出版できないでしょう。例えば、ヒトラーの『わが闘争』は、ドイツでは戦後、発行が禁止されていましたが、2016年、学術的な注釈をつけた版の出版が認められました。

さて『卓上語録』は、ルター自身の著作ではなく、ルターの弟子たちを通して間接的に伝えられた「ルターの発言」の集成です。したがって、『卓上語録』の言葉を、直ちにルターの真正の言葉と見なすことはできません。

しかし、『卓上語録』の該当箇所を読む限り、「知的障がい、あるいは精神障がいをもつ人は、生きるに値しないので、殺した方が良い」とルターが発言した、と伝えられていることは、明白な事実です。

問題は、障がいをもつ人に対する、この差別発言が、ルターの真正の言葉であるのかどうか、という点にあるのではありません。そうではなく問題は、ルターの時代に、障がいをもつ人に対して、多くのキリスト者がもっていた差別意識を、そして、ルター自身ももっていたであろうと思われる差別意識を、ルターの宗教改革の伝統に立つ日本福音ルーテル教会が、今日、どのように批判し、克服していくのか、という点にあるのです。

教会の主は、イエス・キリストです。当然、ルーテル教会の主も、イエス・キリストであって、マルティン・ルターではありません。ルターも時代の子であり、歴史的制約を受けています。日本福音ルーテル教会は、ルターの思想を、無批判に受け継ぐのではなく、キリストに対する信仰に立って、現代の脈絡において解釈します。

例えば、マルコ福音書1章32節以下を読むと、キリストは、心の病を患っている大勢の人たちを、いやしておられます。いやしとは、単に病気を治すことではなく、人間の尊厳を守ることでもあります。

しかし残念ながら、今日の日本社会には、障がいをもつ人に対する差別や偏見が、依然として残っています。実際に、2016年7月、障がいを理由に、多くの人の命を奪った、「津久井やまゆり園事件」が起こりました。

ですから、私たちが、主イエス・キリストに倣って、障がいをもつ人の尊厳を守ることは、「キリスト者はすべてのものに仕える僕であって、だれにでも服する」という、ルターの命題の現代化であるわけです。

日本福音ルーテル教会は、「障がいをもつ人は、生きるに値しないので、殺した方が良い」、あるいは、「障がいをもつ人は、不幸せなので、生れて来ない方が良い」という考え方に、徹頭徹尾反対します。そして私たちは、「障がいをもつ人も、障がいをもたない人も、神の目に価高く、貴い」ということを信じるキリスト者として、すべての人が共に暮せる、優しい社会の実現に、多くの人たちと力を合わせて努めます。












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